Top > 小説 青い魚(下書き) > 駐輪場

駐輪場

横断歩道を渡りきったところに大きなショウウィンドウがあって、ディスプレイが黒っぽいせいか鏡のように辺りを映し出していた。
黒いサテン生地の大きな布が波紋のように広がっていてそこにジュエリーと小物が置かれている。
朝はこのガラスに自分を映して洋服のチェックをするのが日課になっていた。


ここのガラスに今まで何人の人が映ったんだろう?


ガラスに向かって自分の姿が近づいてくる。。。
信号の青、ラーメン屋の品のない看板、多彩なイルミネーションがガラスに映り込んでいた。
その中で博美は自分だけ白黒の写真から切り取られ、コラージュされたような存在のように思えた。
実際黒っぽいスーツに白いシャツ。色がない。
でもそれだけではなかった。自分だけ異質な存在のように思えた。
風景に溶け込めない白黒の人形。その人形があやつり人形のように人ごみの中を歩いている。


横からの自分の姿を見ながら左に折れ、その先の路地にはいったところにある駐輪場へと向かった。
駐輪場は隙間もないほど自転車が並べられており自分の自転車を探すにもすぐには見つからないほどだった。両側の自転車をずらして自分の自転車を取り出さなくてはならない。

博美の乗っている自転車は古くも新しくもなかった。大学時代から使っていて通学にも使っていたが大切に使っていたためだろう。
ハンドルのゆるいカーブを描いたところに深い傷があった。
これは思い出の傷だった。この傷があるために自転車を大切に使っているのかもしれない、と客観的に思ったことがある。当時付き合っていた彼氏とふざけて二人乗りをして転んだ時についた傷だった。


博美はその傷を爪でカリカリと引っ掻いていた。

小説 青い魚(下書き)

関連エントリー
映画研究会上司転機夕焼け電車ヒロミアキラある朝隔たり就職スーツ記憶青い魚熱帯魚熱帯魚ショップ社会人半同棲アキラ駐輪場
カテゴリー
更新履歴
映画研究会(2008年3月26日)
上司(2008年3月20日)
転機(2008年3月18日)
夕焼け(2008年3月 5日)
電車(2008年2月27日)