博美とアキラの恋愛の芽は順調に育っていった。
博美の勝気な性格をアキラは大きな心で包み込んでいるような感じだった。
実際自分のことをアキラという大きな水槽の中で自由に泳ぐ熱帯魚のようだと思っていた。
二人の家が近かったこともあり半分同棲のような生活が始まった。
アキラの部屋のほうが若干広かったので、博美は自分の部屋にいるよりもアキラの部屋にいることの方が多くなってきた。
実際日当たりもよく窓を開ければいい風が入ってくる、そんな部屋だったのだ。
当初の博美の任務はアキラの部屋での自分の陣地の拡大だった。
それはまず定番の歯ブラシから行われた。
歯ブラシを置く所に仲良く並んでいるピンクとブルーの歯ブラシを見るとそれだけでニヤニヤしてしまった。
洗面台には化粧品を並べた。
自分の茶碗、お箸とペアのお皿など徐々に増えていき、博美の任務は着々と遂行されつつあった。
ある日、アキラの留守にしている間に博美は自分の下着や洋服、ジーンズ、パジャマなどを大量にアキラの部屋のクローゼットにねじ込んだ。
これで任務完了です!と敬礼をして自分の家に帰ったが、その夜アキラから電話がかかってきた。
何だよー!!びっくりしたよー!!何これ??
アキラは笑いながらそう言った。
任務完了です!!
博美は元気よく答えた。
任務って何よ??あっ、こんなパンティ。。。おれ、履いちゃおうかなぁ。。。ふふふっ。
ぐあーーーーっ!!!やーめーでーぐーでーーーっ!!!!
ふふふっ。。。まぁ、いいんだけどちゃんと洗濯してくれよな。あんまり外には干せないなぁ、これ。。。
えへへ。。。
サークルの帰り、博美の自転車で二人乗りをして帰ることが多くなった。
博美は自転車が好きだった。
車よりもバイクよりも自転車が好き。もし自分に翼をくれるものがあるとしたらそれは自転車だと思えた。
アキラが前に乗って博美はいつも後ろに乗った。
前に乗ることもあったけれどいつも途中で交代してくれた。
博美はアキラの背中のぬくもりを感じながらゆったりと流れていく見慣れた景色を見ているのが好きだった。
自転車の後ろに乗り、チョコチョコといたずらをするのも好きで博美の一つの楽しみになっていた。
アキラは二人でよく見ていたお笑い番組のリアクション芸人のものまねをしてくれるのでそれが楽しかったのだ。
だーれだ?
うわっ!!見えねぇよ!!!やめてくれよーーー!!!
えへへっ。もう一回やっちゃおうかなぁー?
いや、もういい。お腹いっぱいでしゅ!
ほんとー?。。。だーれーだっ?
博美は失敗したと思った。アキラのほうばかりに気を取られていたので状況を見誤ってしまったのだ。
二人を乗せた暴走自転車は道を外れ高さ3メートルほどの急な土手を下って行った。
わーーーーー!
あまりのことに気の抜けた叫び声を上げた。博美は身を固くし目隠しをする手にも力が入ってしまった。
土手を下ったところで二人は自転車から草むらに投げ出された。
自転車はしばらくそのまま進み民家の石の塀にぶつかって倒れた。
だ、だいじょうぶ??
う、うん。。。
アキラは自分のことよりも博美のことを心配して声をかけてくれたが、博美は申し訳なく思いちゃんと目を見れずにうつむいていた。
二人はお互いの服に付いた土埃を払いあって怪我はないか確認したがちょっと擦りむいたくらいでほとんど怪我はなかった。
倒れた自転車を起こしてブレーキやペダルなどをいろいろ見てみたが壊れてはいない。
ただ、ハンドルのゆるいカーブを描いた場所に深い傷ができてしまった。