次の日からヒロミとアキラと魚との共同生活が始まった。
ヒロミは水槽の前でずっと魚を眺めていることが多くなった。
その姿がなんとも子供のようでかわいく思ったアキラも、顔をヒロミにくっつけんばかりに側によって一緒に魚を眺めた。
あまり元気がないようだがこんな魚なんだろうなとアキラは思っていた。
ひれは動かしているようだが時々方向転換するくらいであまり運動をしない。
それでもヒロミは飽きずに眺めていて時折何か話しかけているようだった。
餌をあげるのを毎日交代の当番制にすることにした。
ヒロミが言い出したのだ。
ヒロミはアキラにも魚をもっと好きになってほしいと思っていた。
餌は自分がやれば問題ないのだけれどアキラにもあげてほしかったのだ。
カレンダーの数字にマジックで色分けして予定表を作った。
ヒロミはアキラが餌をあげるところを見ているのが好きだった。
餌がアキラの指から離れ水中にはらはらと降りてきてそれを魚がパクッと食べるところがすごくかわいいのだ。
水槽は窓辺に置いていたが食事のときはテーブルに移動して一緒に食事していた。
ダメっ!お腹壊すでしょー!?
ご、ごめん。。。そんなに怒らなくても。。。
アキラはご飯粒を魚にあげようとしてヒロミからこっぴどく怒られることもあった。
ヒロミとアキラと魚の生活は順調だった。
ヒロミもこの生活が気に入っていて一生こんなふうに生活できたらいいと思うようになっていた。
アキラもすっかり魚のことが好きになったようで、ヒロミに魚の話を聞くようになっていた。
そのこともヒロミは好きだった。好きな人が自分の好きな物を好きになってくれている、この事実だけでも幸せになれると思った。
アキラも魚を飼ってよかったなと思っていた。ヒロミも楽しそうだし自分も魚が好きになり熱帯魚図鑑を買って帰ってヒロミを驚かせることもあった。
何よりもこのヒロミと魚と自分との生活空間が愛おしいと思えた。
3か月ほど経った朝のことだった。
いつもより早く目が覚めたヒロミは隣で眠るアキラごしに水槽の方に目をやった。
あれ?なんかおかしいなぁ。。。
ヒロミは眼をこすってもう一度水槽に目をやった。
あっ!!
ヒロミは飛び起きて水槽の前に移動してそこに座り込んだ。
そこにはここにいるはずのない色をした魚がいた。
アキラ!ちょっと起きてよ、早くー!!
う~ん。。なぁにぃ?
アキラは寝癖のついた髪をぼりぼり掻きながら目を開こうと努力していた。
見てよ!ほら!魚が!!
アキラは水槽の前に行きヒロミの隣に座った。
あぁ!!すごい!!綺麗だねーー!!でもなんでだろうね???
そこには青黒い魚の姿はなく、綺麗な透き通るような青い色をした魚がそこにはいた。
青い魚は柔らかい朝の光を浴びながら悠然と水槽の中を泳いでいた。
うん、不思議だね。。。でも綺麗!!
二人はパジャマ姿で顔を寄せ合って水槽を眺めていた。
ヒロミは熱帯魚は環境で体の色が変わることがあるという話を思い出していた。