アキラの就職はあっさりと決まってしまった。
採用が決まったその日は二人でささやかなパーティーをした。
ヒロミはこれからのことをアキラに話そうと思ったけれど話せなかった。
先のことをはっきりと決めてしまうのは怖いと思った。
それよりも今はこの時間を大切にしようと考えたのだ。
ヒロミはアキラとの残りの学生生活を目に焼き付けるように心に刻むように過ごしていった。
二人で歩く夕焼けの帰り道、踏切前の信号の点滅、自転車に乗るアキラの背中、すべてを忘れたくないと思ったし、いつでも思い出せるようにと大切に心にしまい込んだ。
写真もたくさん撮った。一緒に食べたご飯、ヒロミの自転車、熱帯魚ショップ、たわいもないところまで一日に何枚も撮っていた。
とりあえずおれが働き出してからも今まで通り生活していこうということをアキラは言ってくれた。
ヒロミはうれしかった。
うれしかったけど、不安はぬぐえなかった。
来年度から一人で学校に行くのははっきりいって気が重い。
でもそれは仕方のないこと、大人にならなきゃなー、といつも思っていた。
とうとう離れ離れの生活がやってきた。
離れ離れではないのだけれどもヒロミにはそう思えた。
これから私たちどうなってしまうんだろう?
そう思ったが初日は元気よく送り出そうと思った。
いってらっしゃーい!
いってきまーす!
えへへ、なんか奥さんみたいでしょ?
ばーか。。
アキラは照れ笑いを浮かべながらそう言った。
そろそろヒロミも学校に行く時間が近づいていた。
ヒロミは淡々と支度を終え自転車にまたがった。
私もがんばらなきゃな!
春のやさしい風の中をヒロミの自転車は走りぬけて行った。