駅はいつもと変わらぬ風景だった。
ホームには人がごったがえしていてアキラもその中に紛れていた。
今にも雨が降りそうな雲行きで傘を持っている人もちらほら見える。
赤い特急電車がスピードを落とさずこの駅を通り過ぎる。
ホームに落ちていた紙屑が風に舞った。
この駅は。。
明日も明後日も10年後もおれがいなくなってからもずっとこんな毎日を繰り返すのだろうか。。
アキラの頭の中にヒロミの後姿が焼きついていた。
二人の間にずっと違和感があることも感じていたのでよくない予感もあった。
はっきり話せば、話し合えばよかったんだと思った。
でも何かを明らかにするのは勇気がいることだ。
はっきりしてしまうともろくも壊れちゃうかもしれない。
そう思うとこのままでもいいと感じていた。
いつかまた前のようにやっていける日々が帰ってくるんじゃないかと淡い期待を抱いていたのだ。
そういう気持ちはヒロミには伝わっていなかった。
一緒にいたのにヒロミには話さなければいけないことがたくさんあるように感じた。
本当に話さなければならないことを話していないように思えた。
帰ったらヒロミとたくさん話したい。
そういう気持ちがいまのアキラを支えていた。
仕事は先輩のフォローもありとりあえずうまくいったようだった。
アキラは先輩の誘いも断り急いで帰りの電車に乗った。
電車の窓から見える日が暮れた直後の町並みはどこか疲れているように見えた。
街灯が一つまた一つ灯るのが見える。
最寄り駅に着いたころには辺りはすでに夜の風が吹いていた。
アキラは自宅の玄関の扉を開けた。
電気が消えていたので、もしやと思ったがやはりヒロミの姿はなかった。
水槽の中に青い魚の亡骸もなかった。
アキラはヒロミの携帯に電話をかけてみたが電話には出なかったのでメールを入れてみた。
返信はなかったが、いろいろあって疲れて寝ているかもしれないのでそっとしておこうと思いおやすみのメールを入れて返信を待つことにした。
そのうちアキラも疲れていたのかウトウトし始めてついには眠りに引き込まれていった。