小説 青い魚(下書き)
小説 青い魚(下書き)一覧
映画研究会
大学に入学した時のことだった。 ヒロミは上京したばかりで友達も少ないから何かのサークルに入ろうと思っていた。 高校時代は体育会系の部活をこなしていたが、自由になる時間が少なく、大学に入ったらもっと楽なサークルで遊びが主な活動のサークルに入りたいと思っていたのだ。 高校時代は時間も自由になるお金も少な
上司
朝の通勤電車はストレスそのものだった。 今まで自転車で学校やバイトに通っていたので、就職とともに生活はまるっきり変わってしまった。 時間をずらしてもどうにもならない。 一か月もするとどうにかして快適に通勤しようという思いはなくなってしまって、ただ心を失くしたように電車に揺られていた。 会社のある最寄
転機
あの日から二人の間で何かが変わってしまった。 ヒロミはアキラからの電話やメールに返事はしたが自分から連絡を取るようなことはしなかった。 遊びに行こうと言われても疲れていることを理由に断っていた。 実際にアルバイトで疲れていたし日曜が忙しいようなバイトだったので、アキラの休日とはなかなか日が合わなかっ
夕焼け
アキラが出て行ったあともヒロミは涙が止まらなかった。 静かな部屋の中に自分のすすり泣く音だけが漂っている。 それが余計に寂しさを増していった。 ついには泣き疲れてその場で寝てしまった。 いったい何時間寝ていたんだろう? ヒロミがようやく目を覚ました時はすでに日が西に傾きかけていた。 ゆっくりと起き上
電車
駅はいつもと変わらぬ風景だった。 ホームには人がごったがえしていてアキラもその中に紛れていた。 今にも雨が降りそうな雲行きで傘を持っている人もちらほら見える。 赤い特急電車がスピードを落とさずこの駅を通り過ぎる。 ホームに落ちていた紙屑が風に舞った。 この駅は。。 明日も明後日も10年後もおれがいな
ヒロミ
真っ暗な重いカーテンが目の前に下りてきたような感じだった。 全身の力が抜けてしまったようで体がバラバラになっていくようだった。 最初は事態がよく理解できなかったが次第に周りが見えるようになってきた。 そして何が起こったのかを再び理解すると激しい悲しみが襲ってきた。 ヒロミの目から涙が溢れてきてそれは
アキラ
物音と人の気配でアキラは目が覚めた。 ヒロミが来たんだろうと思い、目を開けるとそこには生気を失ったヒロミの後姿があった。 どうしたの?? アキラはその後姿に動揺して、抑えた声でそういうと慎重にヒロミの方へと近づいていった。 あぁぁ・・・ アキラは瞬時に事態を飲み込めた。 しかし何も言葉を発することが
ある朝
月日が流れても二人の状況に変わりはなかった。 ただ、二人の間の見えない隔たりはさらに大きくなっていった。 アキラは酔って帰ることもありヒロミはどうしていいかわからないような感じを覚えた。 アキラが別人のように思えたこともある。 二人で決めた餌やりの当番もアキラは忘れるようになっていた。 それに対して
隔たり
ヒロミの不安は的中しつつあった。 それはしだいにヒロミの心の中の大部分を占めるようになってきた。 アキラは目に見えて帰りが遅くなり帰ってきてからもパソコンでなにか作業をしているようだった。 その後ろで青い魚を眺めながらアキラの様子をうかがっていたヒロミはアキラがやつれてきたのに気付いた。 ヒロミは頑
就職
アキラの就職はあっさりと決まってしまった。 採用が決まったその日は二人でささやかなパーティーをした。 ヒロミはこれからのことをアキラに話そうと思ったけれど話せなかった。 先のことをはっきりと決めてしまうのは怖いと思った。 それよりも今はこの時間を大切にしようと考えたのだ。 ヒロミはアキラとの残りの学
スーツ
ヒロミとアキラと青い魚の生活は順調だった。 ヒロミは幸せという言葉を口にするようになっていた。 日が昇って日が暮れる、そんな単調な毎日でさえ大切に思えた。 でも今のヒロミにはひとつだけ不安があった。 アキラが今年で大学を卒業してしまう。 そのためにこれから就職活動をしなければならない。 アキラが就職
記憶
あふれてくる湧水を手で押さえつけるようだった。 指の間からどうしても滲んでこぼれて行ってしまう。 その水滴が何かにぶつかって弾けるたびに記憶が一つ蘇るようだった。 やがて湧水の勢いが増し、ヒロミの小さな手では押さえつけることができなくなり、力も尽きてしまった。 ヒロミは記憶を解放した。 今まで忘れよ
青い魚
次の日からヒロミとアキラと魚との共同生活が始まった。 ヒロミは水槽の前でずっと魚を眺めていることが多くなった。 その姿がなんとも子供のようでかわいく思ったアキラも、顔をヒロミにくっつけんばかりに側によって一緒に魚を眺めた。 あまり元気がないようだがこんな魚なんだろうなとアキラは思っていた。 ひれは動
熱帯魚
とある夏の午後のだった。 いつものように二人で自転車で学校から帰っている途中にヒロミは財布に新しくできたファーストフード店の割引券があるのを思い出した。 早く使わないと期限が切れてしまう。 ねぇ、これあるんだけど食べて帰らない? あぁ、これあそこかぁ。全然逆なんだけどいってみようか。うまそうだねー!
熱帯魚ショップ
博美は熱帯魚ショップの前の歩道にいつものように自転車を停めショップに入って行った。 たぶん父親とその娘だろう二人がこのショップの店員だ。 だからそんなには大きくないし内装もオシャレではない。 でも、一通りの設備、魚などが揃っており、一応の熱帯魚ショップとしての体裁は整えていた。 父親はいつもレジのと
社会人
博美はこの深い傷に爪を立てるのが癖になっていた。 何かと無意識のうちにやってしまう。 駐輪場から自転車を出して押して歩いた。 このあたりはまだ人が多く押していった方がスムーズだ。 博美は入社して社員研修を終えてとある部署へ配属された。 仕事は好きでも嫌いでもなかった、というのはこなしていかないと生活
半同棲
博美とアキラの恋愛の芽は順調に育っていった。 博美の勝気な性格をアキラは大きな心で包み込んでいるような感じだった。 実際自分のことをアキラという大きな水槽の中で自由に泳ぐ熱帯魚のようだと思っていた。 二人の家が近かったこともあり半分同棲のような生活が始まった。 アキラの部屋のほうが若干広かったので、
アキラ
出会いは突然やってきた。 学生時代、初夏の大学のキャンパスを友達と二人で歩いていた博美は後ろからの聞き覚えのある声で呼びとめられた。 博美さん、ちょっと時間ある? その声の持ち主はサークルの先輩のアキラだった。 今まで見たことない表情をしている。 博美は事態をすぐに理解できた。 自分の顔が熱くなるの
駐輪場
横断歩道を渡りきったところに大きなショウウィンドウがあって、ディスプレイが黒っぽいせいか鏡のように辺りを映し出していた。 黒いサテン生地の大きな布が波紋のように広がっていてそこにジュエリーと小物が置かれている。 朝はこのガラスに自分を映して洋服のチェックをするのが日課になっていた。 ここのガラスに今
町
あぁ、赤だ。。。 正確には赤に変わっていない。 歩行者用の信号が点滅し始めた。 周りの人たちは赤になる前に渡りきろうと小走りになった。 早く帰っても。。。何があるというのだろう? 急ぐ人たちの後姿をぼんやりと眺めながら博美はそう思った。 都心から20分ほど電車で下るとどこにでもあるような町だ。 下り